危険なイレレバント場に対するスケーリング関係式

連続相転移で現れる臨界現象では,通常,「イレレバント」な性質は大きな役割を果たさずに「レレバント」な性質により臨界指数などの特徴が支配される.そのため,臨界現象は物理系の詳細に依存せずに,物理系の対称性や空間の次元等の少数の性質だけで,その振る舞いの特徴が決まっている.しかし,特殊な場合には,臨界現象に重要な役割を果たすイレレバント変数が存在し,それは「危険なイレレバント場」と呼ばれている.我々は,そのような危険なイレレバント変数が物理系の対称性を低下させる場合について考察し,臨界現象を特徴付ける臨界指数の間に新しいスケーリング関係式が成立することを示した.

図1 : 危険なイレレバント場 \(\lambda\) が存在する場合の一般的なくり込みの図.[1]より.
我々は図1のような二つの固定点(臨界点を支配する臨界固定点 \(X\) と,秩序状態を支配する固定点 \(Y\))を含む一般的なくり込み群の流れを考察した.このくり込みの流れでは,対称性を破る場 \(\lambda\) は,臨界点近傍では,ある長さスケール \(\xi\) まででほとんどゼロになる一方で,もう少し長いスケール \(\xi^\prime\) では,その値が有限に「復活」する.そのため,二つの長さスケールの中間の大きさ, \(\xi \ll L \ll \xi^\prime\) では, 対称性を破る場 \(\lambda\) があたかも無い(\(\lambda=0\))ように感じられ,新しい対称性が現れたように見えることになる.

このようなくり込みの流れが実現している古典的な例は,3次元のq状態クロック模型と呼ばれる,q 個の向やすい方向を持った,平面内で自由な方向を向けるベクトルスピンが相互作用する模型である.この模型において,短い相関長 \(\xi\) を特徴付ける臨界指数 \(\nu\) と長い相関長 \(\xi^\prime\) を特徴付ける臨界指数 \(\nu^\prime\) との間に成立するスケーリング関係式については,これまでにドメインウォールの存在を仮定し,その自由エネルギーが系の体積や断面積に比例するすると考える議論が行われていた[2,3,4].我々は,くり込みの流れ(図1)を元にしたより一般的な議論により,二つの固定点 \(X, Y\) での \(\lambda\) のスケーリング次元,\(y_\lambda < 0\) と \(y_\lambda^\prime > 0\) を用いて,\(\nu\) と \(\nu^\prime\) との間に,$$\frac{\nu^\prime}{\nu} = 1 – \frac{y_\lambda}{y_\lambda^\prime}$$という関係式が成立することを示した.

図2 : 平均磁化の方向に依存したスピン揺らぎのフーリエ変換 \(\tilde{S}_k\) の温度依存性の両対数プロット.(a) 3次元 6状態 クロック模型 (b) 4次元 6状態 クロック模型.[1]より.
また,提案したスケーリング関係式が成立していることを確認するために,平均磁化の方向に依存したスピン揺らぎのフーリエ変換 \(\tilde{S}_k\)を定義しその振る舞いをモンテカルロシミュレーションにより計算した.この \(\tilde{S}_k\) は有限サイズスケーリング $$\tilde{S}_{k} \sim L^\mu g \left [(T-T_c)L^{\nu^\prime}\right]$$ に従うことが期待される.図2 に示したように,数値計算結果は,期待される有限サイズスケーリングによく従っており,我々が提案したスケーリング関係式が確かに成立していることが確認できた.

(by 大久保 毅)

参考文献

  1. T. Okubo, K. Oshikawa, H. Watanabe and N. Kawashima: Phys. Rev. B 91, 174417 (2015).
  2. Y. Ueno and K. Mitsubo: Phys. Rev. B 43, 8654 (1991).
  3. M. Oshikawa: Phys. Rev. B 61, 3430 (2000).
  4. J. Low, A. W. Sandvik, and L. Balents: Phys. Rev. Lett. 99, 207203 (2007).