古典ハイゼンベルクモデルにおける三回対称性の破れを伴う一次相転移

層状カルコゲナイド化合物NiGa2S4は,スピン \(S=1\) の三角格子を持つ反強磁性物質であることが知られている. 近年行われた中性子散乱実験の結果から,極低温において非整合なスピン配置をとることが明らかとなっており,このことはNiGa2S4において第三近接相互作用の存在を示唆している [1,2].

我々はNiGa2S4の有限温度の性質を調べるため,強磁性的最近接相互作用 \(J_1\) および反強磁性的第三近接相互作用 \(J_3\) のある二次元三角格子古典ハイゼンベルクモデルの解析を行った. このモデルの基底状態は非整合なスピン配置をとり,格子空間の120度回転に対応する三重縮退が存在することが分かる.(図1の模式図は基底状態のスピン配置の一例である.)

図1

相互作用比を \(J_3/J_1=-3\) にした場合の古典モンテカルロシミュレーションを行った結果,比熱に有限温度相転移の存在を示唆する発散的なピークが一つ現れ, 転移温度において,エネルギーヒストグラムにダブルピーク構造(図2)が現れることが分かった. 得られた計算結果をもとに解析を行った結果,この系は転移温度で三重縮退した基底状態のうち一つが選ばれ,有限温度において三回対称性の破れを伴った一次相転移が存在することが明らかになった [3].

図2

(by 田村亮)

[参考文献]

[1] S. Nakatsuji et al., Science 309, 1697 (2005).
[2] S. Nakatsuji et al.,  J.Phys: Condens. Matter 19, 145232 (2007).
[3] R. Tamura and N. Kawashima, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 103002 (2008).