フラストレーションのある磁性体は、統計物理学的観点からも、あるいは物性科学的観点からも非常に興味深い物質であり、 これまで非常に多くの研究が理論・実験両面からなされてきた。 理論的には、フラストレーションの効果により新奇な秩序構造が出現する点が、フラストレーション物性の重要な点の1つである。 近年、中辻知研究室(東京大学物性研究所)において、三角格子反強磁性体の新物質 Rb4Mn(MoO4)3 が合成された(図1)。この物質は磁性を担うイオンがMn2+であり、S=5/2のスピンが三角格子のネットワークを形成している物質である。 帯磁率測定から、この物質は小さい容易軸異方性があることが実験的に確認されている。
そこで我々は、容易軸異方性を持つ三角格子反強磁性体のモンテカルロシミュレーションを行い、 磁場の印加方向が容易軸に平行な場合、垂直な場合それぞれについて相図を得た(図2)。 ここで我々が導入したモデルは、最近接サイトに働く反強磁性的相互作用および、 1イオン異方性項の2つのパラメータのみから成る非常にシンプルなモデルである。 実験により得られている、ゼロ磁場中での2つの相転移温度の情報を元に、我々は容易軸異方性の強さを決定した。 その値を用いて磁場中における帯磁率ならびに比熱の振る舞いを検討したところ、定性的だけではなく、 定量的にも高い精度で実験の値と一致することがわかった。
(by 田中宗)
[参考文献]
[1] Rieko Ishii, Shu Tanaka, Keisuke Onuma, Yusuke Nambu, Masashi Tokunaga, Toshiro Sakakibara, Naoki Kawashima, Yoshiteru Maeno, Collin Broholm, Dixie P. Gautreaux, Julia Y. Chan, and Satoru Nakatsuji, Europhysics Letters 94, 17001 (2011).