弱い鎖間相互作用を持つS=1/2反強磁性スピン鎖の有限温度下における秩序状態

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近年、強い反強磁性イジング異方性を持つスピンS=1/2XXZモデルでは、超流動固体状態やカゴメ格子上で現れる新奇なVBS状態など、強い量子揺らぎとイジング異方性に起因した興味深い秩序状態が磁場中で数多く見つかり盛んに研究が行われている[1]。この系は格子形状が立方格子の場合に極低温領域で異方軸方向に磁場を印加するとスピンフロップ転移することが知られている[2]。すなわち異方軸方向にスピンが反強磁性的にそろったネール状態から磁場垂直面内でスピンが反強磁性的にそろった有限磁化状態へ一次転移する。一方純粋な1次系であるS=1/2XXZスピン鎖の場合、有限磁化を持つ磁場領域において系の低エネルギー励起が朝永-ラッティンジャー(TL)液体で記述される臨界相が現れる。このTL液体相では、高磁場側で磁場垂直面内の反強磁性相関、低磁場側で磁場方向の非整合周期を持つスピン密度波相関が支配的なスピン揺らぎとなる。したがって、鎖間相互作用が働く場合、鎖内の支配的なスピン揺らぎを反映した秩序状態が実現すると期待される。つまり、低磁場側では非整合周期を持ったスピン密度波状態が実現すると期待される。しかし、鎖間と鎖内相互作用が同じ強さ同じになる3次元系では非整合スピン密度波相は存在しない。このことは、鎖間相互作用の強さを変えた場合に、古典的な描像では記述できない非自明な繰り込み群固定点の存在を示唆しており、理論的に非常に興味深い。

我々は、弱い鎖間相互作用が働くS=1/2XXZスピン鎖モデルの磁場中秩序状態について量子モンテカルロ法を用いて調べ、鎖間相互作用の強さを変えた場合の温度磁場相図と現れる秩序相を明らかした。その結果、S=1/2XXZスピン鎖が鎖間相互作用を通して3次元立方格子を組む場合には、低磁場-極低温領域において非整合スピン密度波状態が長距離秩序状態として現れることがわかった。しかし、2次元正方格子を組む場合には、極低温領域まで秩序相への相転移が現れず、常磁性相が広がっていることがわかった[3]。図1に得られた温度磁場相図を示す。

(by 鈴木隆史)

[参考文献]
[1] F. H'ebert, et. al., Phys. Reb. B 65, 014513 (2001); M. Boninsegni and N. Proko'ev, Phys. Rev. Lett. 95, 237204 (2005); D. C. Cabra, et. al., Phys. Rev. B 71, 144420 (2005); S. V. Isakov,et. al., Phys. Rev. Lett. 97, 147202 (2005); A. Banerjee, et. al., cond-mat/0702029.
[2] M. Kohno and M. Takahashi, Phys. Rev. B 56, 3212 (1997).
[3] T. Suzuki and N. Kawashima, K. Okunishi, J. Phys. Soc. Jpn. 76, 123707 (2007); K. Okunishi and T. Suzuki, Phys. Rev. B 76, 224411 (2007).

図1 2Dの場合の温度磁場相図(上)と3Dの場合(下). 黒丸はIsing対称性破れを起こす温度で白丸はU(1)対称性の破れる転移点を表す.